カワヅザクラ(河津桜)


   
 美術館の庭にカワヅザクラが植わっている。今年(2022年)は1月の中頃からチラホラと咲き始めた。しかし、今年の冬は例年より寒い日が多く、開花は一向に進まず、結局例年に比べて2週間ほども遅い3月初めにやっと満開を迎えた。桜の開花予想は非常に難しく、天候に大いに左右される。今年の2月18日に河津町を訪れたたが、やはりカワヅサクラはまだチラホラとしか咲いていなかった。例年なら、すでに満開を迎え観光客で賑わっている時期であった。
河津町の「桜祭り」は、毎年2月10日から3月10日まで開催される。この祭りに例年100万人もの観光客が訪れる。しかし、昨年はコロナ・ウィルスの感染防止のため、やむなく開催は中止された。そして今年は規模を縮小し「桜祭り」は2月1日から2月28日までの開催となった。だが、河津町で見ごろを迎えたのは、祭り期間の終わりになってからで、満開は3月になってしまった。

 カワヅザクラは、早咲きのオオシマザクラ (大島桜.) とカンヒザクラ (寒緋桜)の自然交配から生まれた栽培品種のサクラである。樹高は5~7mで、一重咲きで3.5cm前後の花を咲かせ、花弁の色は開花日の薄紅から日とともに色が濃くなり4日目に紫紅となる。花期の期間は長く、次々と花が咲き1ヶ月は続く。

 カワヅザクラの由来について、河津町のホームページは次のように記している。
 「河津桜の原木は、河津町田中の飯田勝美氏(故人)が1955年(昭和30年)頃の2月のある日河津川沿いの冬枯れ雑草の中で芽咲いているさくらの苗を見つけて、現在地に植えたものです。1966年(昭和41年)から開花がみられ、1月下旬頃から淡紅色の花が約1ヶ月にわたって咲き続けて近隣の注目を集めました。伊東市に住む勝又光也氏は1968年(昭和43年)頃からこのサクラを増殖し、このサクラの普及に大きく貢献しています。一方、県有用植物園(現農業試験場南伊豆分場)は、賀茂農業改良普及所、下田林業事務所(現伊豆農林事務所)や河津町等と、この特徴ある早咲き桜について調査をし、この桜は河津町に原木があることから、1974年(昭和49年)にカワヅザクラ(河津桜)と命名され、1975年(昭和50年)には河津町の木に指定されました。カワヅザクラはオオシマザクラ系とカンヒザクラ系の自然交配種と推定されています」


              オオシマザクラ                                 カンヒザクラ

 しかし、地元の伊豆新聞の2005年2月3日の記事に、「河津桜の原木は同町峰の元キネマ劇場の隣家(現在はない)にあった苗木を飯田さんの亡父勝美氏が昭和三十年ごろもらい受け現在の場所に定植、同四十一年ごろに開花した。その後増殖され植栽が進められた。同五十年四月に町の木に指定され、現在町内に八千本が植えられている」とあり、ホームページとは異なる由来が記されていた。

日本に原種とされるサクラは10種類くらいである。オオシマザクラもカンヒザクラも原種のサクラである。原種のサクラを「山桜」、自然交配や人口交配で生まれたサクラを「里桜」ともいう。山桜は寿命が長く、樹齢1000年を超える桜もある。それに対し、里桜は寿命が短く60年ほどだという。カワヅザクラの原木はすでに60年以上経過しているので、そろそろ寿命かもしれない。
 里桜の寿命が短いのは樹勢劣化や病虫害による病斑や、植栽間隔が短く枝が接触することによる生育障害があるからとされる。しかし、確証はない。手入れが良ければ、100年を超える里桜もある。

 カワヅサクラは花の少ない時期に鮮やかに咲くので、多くの人から受け入れられ、日本各地に植栽が進められた。南伊豆の上賀茂温泉の青野川沿いに800本、神奈川県松田町に360本、千葉県白子町に400本、長崎県佐々町に260本、千葉県八千代市の新川沿いに700本、そして千葉県鋸南町には河津町を超える14000本、が植栽された。