ビワ(枇杷)


 
 冬に咲く花は数少ない。ビワの花はその花の一つである。

 バラ科ビワ属の常緑高木。中国南西部江南地方原産。日本には古代に持ち込まれたと考えられている。奈良時代の「正倉院文書」、平安時代の深根輔仁撰による日本現存最古の薬物辞典である「本草和名」(918年)に記載されている。またインドなどにも広がり、ビワを用いた様々な療法が生まれた。中国系移民がハワイに持ち込んだ他、日本からイスラエルやブラジルに広まった。トルコ、レバノン、ギリシャ、イタリア南部、スペイン、フランス南部、アフリカ北部などでも栽培される。
葉は互生し、葉柄は短い。葉の形は20cm前後の長楕円形で厚くて堅く、表面が葉脈ごとに波打つ。縁には波状の鋸歯がある。枝葉は春・夏・秋と年に3度伸長する。春、花芽は主に枝の先端に着く。花は冬に咲く。花期は11~2月、白い地味な花をつける。花弁は5枚。葯には毛が密に生えている。自家受粉が可能で、初夏に卵形をした黄橙色の実をつける。果実は花たくが肥厚した偽果で、全体が薄い産毛に覆われている。長崎県、千葉県、鹿児島県などの温暖な地域での栽培が多いものの若干の耐寒性を持ち、寒冷地でも冬期の最低気温-10℃程度であれば生育・結実可能である。

 ビワは漢名の枇杷の音読みである。枇杷の語源は中国北宋時代の本草書「本草衍義(ほんぞうえんぎ)」に「その葉の形が楽器の琵琶に似ているから名付けた」と記されている。

 ビワはすでに奈良時代には栽培されていたようだが、果実はかなり小さなものだった。現在のような大きさになったのは、江戸時代末期に中国で栽培されていたものが長崎にもたらされたものがきっかけで、それが「茂木」という品種になった。「茂木」は「田中」、「長崎早生」とともにビワの三大品種である。「田中」は明治期の博物学者である田中芳男が長崎から「茂木」を持ち帰って育成したものである。

 葉は琵琶葉(びわよう)、種子は琵琶核(びわかく)とよばれる生薬である。 「大薬王樹」と呼ばれ、民間療薬として親しまれてもいる。なお、以下の利用方法・治療方法は特記しない場合、過去の歴史的な治療法であり、科学的に効果が証明されたものであることを示すものではない。
 葉には収斂(しゅうれん)作用があるタンニンのほか、鎮咳(ちんがい)作用があるアミグダリンなどを多く含み、乾燥させてビワ茶とされる他、直接患部に貼るなど生薬として用いられる。 琵琶葉は、9月上旬ごろに採取して葉の裏側の毛をブラシで取り除き、日干しにしたものである。この琵琶葉5–20 gを600 ccの水で煎じて、1日3回に分けて服用すると、咳、胃炎、悪心、嘔吐のほか、下痢止めに効果があるとされる。また、あせもや湿疹には、煎じ汁の冷めたもので患部を洗うか、浴湯料として用いられる。江戸時代には、夏の暑気あたりを防止する琵琶葉湯(びわようとう)に人気があった。これはビワの葉に甘草や肉桂など7つの生薬などを配合して煎じたもので、葉に含まれるアミグダリンが分解して生じたベンズアルデヒドによって、清涼飲料的効果が生み出されるといわれている。
 種子は、5個ほど砕いたものを400 ccの水で煎じて服用すると、咳、吐血、鼻血に効果があるとされる。
 葉の上にお灸を乗せる(温圧療法)とアミグダリンの鎮痛作用により神経痛に効果があるとされる。 ただし、アミグダリンは胃腸で分解されると猛毒である青酸を発生する。そのため、葉などアミグダリンが多く含まれる部位を経口摂取する際は、取り扱いを間違えると健康を害し、最悪の場合は命を落とす危険性がある。

材は堅く、装飾用建材、杖などに加工される。