コスモス(秋桜)


 
 
  美術館を開設した年(2000年)、庭一面にコスモスの種を蒔いた。秋になると、コスモスが庭を埋め尽くすように咲いた。ピンク、白、赤のコスモスが美術館に彩を添えてくれた。それから毎年、秋になるとこぼれ種でコスモスは咲く。2mにもなるコスモスは、その高さに比べると茎は細く、いかにもか弱そうである。秋は台風のシーズンであり、台風に出会うと、強い風に耐え切れず吹き倒されてしまう。台風の去ったあと、茎を起こし添え木で補強してやると、元に戻る。かよわそうに見えてもコスモスはたくましい植物で、自然界では風に吹き倒されても、倒されたところで根を出し立ち上がってくるという。
 


 コスモスは、キク科コスモス属の一年草。茎は高さ2 - 3mになり、よく枝を出す。葉は対生で二回羽状複葉。細かく裂け、小葉はほぼ糸状になる。頭花は径6 - 10cm、周囲の舌状花は白から淡紅色、あるいは濃紅色。中央の筒状花は黄色。葯は黄褐色。通常は舌状花は8個。開花期は秋で、短日植物の代表としても知られる。また、種としてのオオハルシャギク chrysanthemum を指す場合もある。花が桜に似ているのでアキザクラ(秋桜)とも言う。

 コスモスの原産地はメキシコ中央高原で、2400~2700mの高地に自生していた。1789年、スペインの植物学者ビセンテ・セルバンテスがメキシコの植物調査を行い、コスモスを発見した。彼はその種子をマドリッド王立植物園長であるアントニオ・ホセ・カヴァニエス神父のもとに送った。1791年、神父はこれにコスモス・ビピンナトス(Cosmos bipinnatus)という学名をつけた。8枚の花びらが整然とバランスよく並んでいることからギリシア語で「宇宙、秩序、調和」を意味し、また「飾り、美麗」を意味するコスモス(Cosmos)と名付けた。種名のビピンナトス(bipinnatus)は「二回羽状の」という意味で、葉が細く分裂していることを意味している。何故コスモスの葉は糸のように細いのか。原産地のメキシコ中央高原は雨風の強い土地なので、少しでも雨風をやり過ごせるようにという対策が葉に凝らされている。
 日本に渡来したのは、幕末の文久年間にオランダ人により薩摩藩に伝えられたとされる。しかし、日本に普及するようになったのは、東京美術学校の教師ラグーザによって明治12年、イタリアから種子をもたらしたことによる。 

現在は、日本の秋を彩るポピュラーな花の一つである。コスモスの名所は全国に50か所を超える。また、一部では野生化もしている。

 コスモスは典型的なキク科の花の形状をしていて、頭花の周りには8個の舌状花が並び、中央には黄色い管状花がたくさん集まっている。舌状花は実を結ばず、実を結ぶのは管状花だけである。舌状花も管状花も、花の下に膜状の苞をつけているが、このような形は原始的なものと考えられている。
コスモスは短日性(秋咲き)だが、1936年に短日性をほぼ失った品種(センセーション)がアメリカで育成された。春に種をまけば、初夏に開花する品種である。夏咲き品種の出現は、ヨーロッパにコスモス園芸のブームを起こした。花弁が丈夫なベルサイユや、花弁が筒状になったシーシェルが作出された。本格的な矮性品種が現れたのは1991年のことで、ヨーロッパで金賞を受賞したソナタの高さは40㎝程である。
 
 
   
         イエローガーデン          イエローキャンパス

 メキシコの高原に咲く原種コスモスの花の色は白、ピンク、深紅の3色だった。その3色の組み合わせによる園芸種が次々と作られてきた。しかし、黄色のコスモスは存在しなかった。キバナコスモスはコスモスと同属だが、別種の花でキバナコスモスとコスモスを交配することはできない。そんな中、玉川大学の佐俣淑彦教授が1957年八重咲きの深紅のコスモスの花弁の一部が黄色である個体を見付けた。それを見た教授は黄色のコスモスを自分の手で作ろうと夢見て黄色に発色する個体を選抜して交配を繰り返してきた。しかしそれは容易なことではなく、初期には淡黄色花しか得られなかったり、花形にもばらつきがあったが、徐々に黄色発色で正常な花形の個体が増えてきた。そんな折り、佐保教授は道半ばにして1984年に逝去した。その先生の遺志を継いだ稲津厚生教授が再び交配を繰り返し、やっと1987年世界初の黄色コスモス’イエローガーデン’が誕生した。
 佐俣教授が夢を見てから実に30年、60世代(春と秋の年2回の選抜)の交配の末誕生したイエローガーデンは男達の夢の結晶であった。
 しかし、イエローガーデンの種から育てると先祖返りして黄色ではなくなるため、さらに改良を加えて、完全な黄色コスモス’イエローキャンパス’が生まれた。

 コスモスは外来植物だが、もうすっかり日本の風景の中に溶け込んでいるようだ。

淡紅(うすべに)の秋桜(コスモス)が秋の日の
何気ない 陽溜(ひだま)りに揺れている
この頃 涙脆(なみだもろ)くなった母が
庭先でひとつ咳(せき)をする
縁側でアルバムを開いては
私の幼い日の思い出を
何度も同じ話 くりかえす
独り言みたいに 小さな声で
こんな小春日和の 穏やかな日は
あなたの優しさが 浸みて来る
明日(あした)嫁ぐ私に
苦労はしても
笑い話に時が変えるよ
心配いらないと笑った