ダイコンとハマダイコン
日本の野菜の生産量で、ダイコンはかつてダントツの一位を続けていた。戦後、増産を続け1963年には345万トンに達した。しかし、それをピークにして減少していく。食の洋風化、漬物離れが原因である。今では、ジャガイモ、キャベツに追い抜かれ、3位となり、生産量も2023年産は114万トンと、ピーク時の3分の1にまで減少した。
アブラナ科ダイコン属の二年草。コーカサス南部からパレスチナが原産地とされてきたが、アブラナ科の植物のほとんどが地中海沿岸が原産地とされるため地中海沿岸が原産地とする説が有力になっている。しかし、中央アジアやインドなど世界各地に野生のものが見られるため原産地が明らかでない。日本には古く中国から渡来した。古事記や日本書紀にも「於朋禰(おほね)」の名で記載がある。高さ約1m。根は白色で長く、多汁で多肉質。根生葉は束生し、長さ30cm以上、羽状に深裂し粗毛がある。春に葉の間から花柄を伸ばし総状花序をつくり、白色または淡紫色の十字状花を付ける。春の七草のスズシロはダイコンのこと。ダイコンの辛みはカラシ油による。
重要な蔬菜として古くから栽培されている。ダイコンの種は大きく分けると、白首大根と青首大根に分かれる。かつては白首大根が主流であったが、現在は青首大根が主になっている。
大根の名前は前述の「於朋禰(おほね)」が「大根(おおね)」になり、これを音読みしたことによる。
大根というから、私たちは根を食べていると思っている。実は大根の種子の中に胚があり、胚が発芽して幼根や子葉が出来る。この幼根と子葉をつなぐ軸状の部分を胚軸という。
ダイコンは成長とともにこの胚軸の部分も成長し肥大していく。土から上に出ている部分が胚軸である。胚軸はダイコンの食用部の上部にあたり、緑色になっている。これは葉緑体が出来て光合成をしているからである。根は土に隠れている部分であり、下部にはショボショボしたひげ根が出ている。
これは青首大根の説明で、白首大根では胚軸も根も土の下である。胚軸が少なく青首にならない。
白首大根は苦みや辛味があり、青首大根と比べると肉質が緻密で煮崩れしにくい。柔らかい食感の煮物になる。身がしまっているので漬物に向いている、また、大根おろしにしてその辛味を楽しむことができる。練馬大根、三浦大根が代表的な品種であるが、現在生産は激減してしまった。
青首大根は水分が多く柔らかく、白首大根と比較すると甘さがあり、食べやすい。また
害虫などの影響も受けにくく、病気にも比較的なりにくいので安定的に栽培することができる。そして、地表から首を出しているので、収穫がしやすい。タキイ種苗が作出した「対病総太り」が代表品種である。
これ以外にもダイコンには多くの品種があり、根の長さ・太さなどの形状が多様。また皮の色も白以外に赤、緑、紫、黄、黒などがあり、地域によっては白よりも普通である。
日本のダイコンの品種は二百種以上におよび、世界一多い。有名なものに、桜島ダイコン(鹿児島)、宮重ダイコン(愛知)、練馬ダイコン(東京)聖護院ダイコン(京都)、守ロダイコン(大阪)などがある。
地下部(茎と根)にヒドラトペクチンなどを含み、かぜの発熱、二日酔には皮付のままおろして食べるとよい。打ち身、くじきにはおろし汁で冷湿布し、はれがひいたらショウガのおろし汁と混ぜて温湿布にするとよい。種子を採集したものを萊菔子(らいふくし)と呼び、胆汁分泌の促進、痰きりの目的で漢方処方に配剤される。
海岸の砂地に自生するハマダイコンは、4~6月に頭部が平らな総状花序を出し、淡紅紫色あるいは白色の寂しげな花を付ける。
このハマダイコンが現在栽培されている大根の祖先種ではないかという説。栽培ダイコンが野生化したものとする説。全く関係ないとする説がある。
ハマダイコンは根は細くて硬いため食用にならない。しかし、肥えた土壌に移すと肥大し柔らかくなり、食用になる。
ダイコンもハマダイコンも植物分類学上は同種とされている。