ドクダミ(蕺)


 
 夏になると、美術館の周りにドクダミがはびこる。道端にもちょっとした空き地にもドクダミの群生を見る。美術館の庭にも、いつしか侵入し、群れて白い十字の花が咲いている。ドクダミは雑草扱いである。しかし、花はシンプルで意外にかわいい。
 ドクダミはドクダミ科ドクダミ属の多年草である。ドクダミ科にはドクダミ属しかない。
東アジアから東南アジアに分布しており、日本では北海道南部から九州で見られる。北海道のものは、本州からの移入によるものとされている

 どこにでも生え、全草に特有の臭気がある。白い地下茎はさかんに枝分かれして増える。茎は黒紫色で、草丈は20–60cmになる。葉は卵状ハート形で暗緑色、長さ約5㎝。初夏、茎の上部から花穂を出し、萼片や花弁を欠く淡黄色の小さな花を穂状につける。穂の下に白い花弁のように見えるのは総苞片で、四枚十字形につけるので、花穂と苞を合わせて一個の花のように見える。
 
 果実は蒴果(果実が乾燥して裂けて種子を放出するもの)、長さ 2–3 mm。中の種子は卵形、長さ約 0.5 mmで褐色。日本のドクダミは有性生殖を行わず、胚珠が無性的に種子になる (アポミクシス:無融合種子形成) と考えられている。また地下茎の分断化などによる栄養繁殖も頻繁に行う。このため繁殖力が強く、放置すると一面ドクダミだらけになり、他の雑草が生えなくなる。

名に「ドク」とあるが、ドクダミは無毒である。おそらく独特な臭気のせいで昔の人は毒があると思ったのだろう。
独特の臭気の正体はアルデヒド由来の精油成分を含んでいるからである。この成分には制菌作用があり、寄生微生物に対する防御をするが、乾燥すると失われる。

 ドクダミは古くから民間薬として利用され、花期の地上部を陰干し乾燥させたものは、生薬としては十薬とよばれる。ゲンノショウコ、センブリとともに日本の三大民間薬の一つとされる。十薬は漢名の蕺(シュウまたはジュウと読む)に由来し、蕺を十に置き換えたものである。また「大和本草」では「十種の薬の能ありて十薬となす」とあり、10の効能があると考えたことにもよる。
 ドクダミは、内服薬として、胃腸病、食あたり、下痢、便秘、利尿などに利用され、外用薬としても腫れ物、吹き出物、皮膚病などに用いられる。

 ドクダミの葉は加熱することで臭気が和らぐため、日本では天ぷらなどにして賞味されることがある。またドクダミの薬効を期待して葉を乾燥させたものを煎じたどくだみ茶が広く飲まれている。また清涼飲料水である爽健美茶も、原料の1つとしてドクダミを使用している。

 ドクダミは薬用や食用に広く利用されているため、商業的な栽培も行われている。日本特産農産物協会によると、日本での栽培面積は、国産薬用植物の需要増加を背景に、2016年の200アール未満から2018年は666アールへと急増した。兵庫県 (253アール) と徳島県 (250アール) が二大産地である。

 ドクダミは園芸用にも栽培されており、またさまざまな園芸品種がある。苞が複数枚重なるように付いたヤエドクダミ、葉に黄色や紅色などの斑が入ったものはフイリドクダミ別名五色ドクダミなどがある。


 和名である「ドクダミ」の名は、民間薬として毒下しの薬効が顕著であるため、毒を抑えることを意味する「毒を矯める」から、「毒矯め(どくだめ)」が転訛して「毒矯み(どくだみ)」と呼ばれるようになったとするのが通説である。しかし「矯める」は曲がったものを真っすぐにするとか、間違ったことを正すという意味はあっても、「毒を消す」と意味をつけるには無理がある。
 牧野富太郎は「毒痛み」の意味で毒や痛みに効くことから名付けられたとしている。しかしドクダミに毒を思わせる臭気はあっても痛みを伴うような成分は含まれていない。また群落地に漂う特有の臭気から毒気が溜まった場所を意味する「毒溜め(どくだめ)」または植物自体が毒を溜めているとする「毒溜め(どくだめ)」が転じてドクダミとよばれるようになったとする説もある。「ドクダミ」の名は比較的新しく、初見は貝原好古の国語辞書『和爾雅(わじが)』(1694年) とされる。

 ドクダミが標準和名であるが、日本全国に分布しているだけに地方名が多くある。この系列の名としてドクタメ、ドクタム、ドクダン、ドクダンビなどりな言が各地でみられる。
「日本植物方言集」によれば、160ほど記載されている。
独特の臭いから、岡山ではイヌノシリ。青森、秋田ではイヌノヘ。山口ではショーヤサンノヘ、島根と山口ではヨメノヘなど。
 尻ふき、尻ぬぐいというのもある。大分ではオショーサンノシリフキ、ショーヤサンノシリノゴイ、ゴゼン(御前)ノシリノゴイ。山口ではジョロ(女郎)ノシリフキ。
 毒があると思われたので、ドクソー(静岡)、ヘビコロシ(大分)、ジヤコロシ(宮崎)、ウマクワズ(高知)、ヤクビョークサ(広島)、リビョー(罹病)クサ(山口)というのもある。
 ドクダミは蛙や蛇のいそうな日陰のじめじめとした場所に好んで生えるので、カエルポッポ(千葉)、ヘビのすみかのヘビサトガラ(大分)、ジャクサ(熊本、大分)などという。
 また鹿児島と宮崎ではカッパグサ、ガラッパグサ系の名が少なくない。カッパの出そうな水辺近くに も生えているからであろう。