ゲンノショウコ(現の証拠)

   夏になると、紅紫色や白色の径1cm程の小さな花が庭のあちこちに咲出す。花は9月から10月にかけて、最も多く咲いている。美術館の庭では白色より紅紫色の花の方が多く咲いている。ゲンノショウコである。白色は東日本に、紅紫色は西日本に優勢な種である。美術館の紅紫色のゲンノショウコは名古屋から持ち込んだもの、白色は元々この地に自生していたものである。どうしてか紅紫色のゲンノショウコの方が庭に広がって咲いている。

 ゲンノショウコはフウロソウ科フウロソウ属の多年草で、北海道から九州に分布し、山野の日当たりのよい草地や道ばたに生える。茎は地表を這って枝分かれして広がる。葉は掌状に3~5裂し、鈍い鋸歯を持ち、葉面に暗紫色の斑点がある。花期は7~10月。花茎にふつう2個のツボミがつき、時期がずれて1つずつ咲く。花弁は5個で平開する。朝早くは蕾のままで下を向いている。日が昇ってくると、蕾は上を向き花を開く。夕方になると、花を閉じ蕾はまた下を向く。曇りの日や雨の日は花は開かない。

 実は長さ約1.5cmで直立し、熟すと種子をはじき飛ばす。
 夏から秋、愛らしい花が空を見上げて咲く。5弁の花びらには細い線が描かれている。よく見ると、花の真ん中に雄しべが点々と目立つ花と、先が5つに割れた雌しべが目立つ花がある。雄しべが目立つのは咲き始めの花。雄しべが花粉を出しきったあとに、雌しべが伸びて先が開き、花粉を受け取る。雄しべと雌しべの成熟時期をずらすことによって、自分の花粉で受粉する事態を避けている。ゲンノショウコは雌雄異熟で雄しべ先熟である。

 花が終わると雌しべの柱はぐんぐん伸びる。その間、基部のふくらみの中では種子が育つ。
 実は秋に熟す。晴れてよく乾燥した日、皮が裂けて瞬間的にくるんと巻き上がり、そのはずみで基部に抱え込まれていた種子が1つ、ぽーんと勢いよく飛ばされる。種子は最大1mほど飛んで、親元を離れる。
 全ての種子を飛ばし終えた実は祭りの時の神輿の屋根のようで「ミコシグサ」との別名がある。


 茎、葉を日干ししたものが生薬のゲンノショウコ。主成分はゲラニインというタンニンの一種である。これには収斂作用(組織や血管を縮める作用)があり、止血、鎮痛や下痢止めに効果があり古くから民間薬として使われている。但し、発熱を伴うような下痢(食あたりなど)には使用しない方がいいとされる。細菌やウイルスの排出をさまたげ、かえって症状が長引く恐れがあるためである。名前の「現の証拠」は効果がすぐ現れるとして付けられた。ゲンノショウコには100以上もの地方名があり、ゲンノショウコによく似たタチマチグサやイシャイラズ、イシャコロシ、イシャナカセなどがある。
 また扁桃炎や口内炎、歯茎の腫れには、煎液でうがいをする。虫剌されや軽い切り傷に生薬の汁液をつけるとよい。入浴剤にすると、あせもの改善や冷え性に効果がある。
まさにゲンノショウコは万能薬である。