セイヨウヒイラギ(西洋柊)

   モチノキ科モチノキ属の常緑小高木で、西アジアから地中海沿岸に分布する。樹高は6mかそれ以上になる。冬になる赤い実が美しく、クリスマスの装飾の定番としても使われる。
セイヨウヒイラギは、古代ローマ時代から宗教的儀式に使われていた。冬至前後に催された農神祭(ローマ神話に登場する農耕神であるサートゥルヌスを祝した祭り)では、この木や枝を飾って翌年の豊かな収穫を祈った。冬に緑を保つ植物は神が宿る木と考えられ、また、とげのある常緑の葉には魔除けの力があるとして、ケルト人などは家の近くにこの木を植えて邪気を祓ったという。また赤い実は太陽の象徴でもあり、冬至の頃に最も勢いの衰える太陽の復活を祈る実でもあった。
 紀元後には、キリスト教徒も利用するようになったが、とくにキリストが磔刑の際にかぶせられたイバラの冠をセイヨウヒイラギのリースに、キリストの血を赤い実に象徴させ、その神聖性はさらに増すようになる。クリスマスの時期にリースを飾るのも、キリストの加護のもと、来年の家族の幸福を祈るためだという。
 英語名からホーリー(Holly)とも呼ばれるが、Hollyはモチノキ属の総称としても使われるので、区別するためにEuropean holly、English hollyともいう。 なお、日本に在来のヒイラギはとげの出た葉の形がよく似ているので混同されやすいが、モクセイ科に属し、実が黒紫色に熟す、全く別の植物である。

セイヨウヒイラギの棘のある葉と棘のない葉はどうしてできるのか?
 動物にとって植物は大事な食べ物だけれど、植物のほうは食べられまいとして、いろいろと手を尽くす。植物が身を守る方法には、体内に有毒な化学物質を発生させる、表面をざらざらにする、かたい毛や蝋のような表皮で体を覆うなどがある。なかでも広く見られるのは、棘で動物を追い払うという方法だ。棘は自前の剣のようなもので、棘がたくさんあると、食べようとしたときに口や皮膚や眼が傷ついてしまうかもしれないので、動物が近づかなくなる。
 セイヨウヒイラギは発育段階に応じて身の守りかたを変える賢い植物の代表例だ。生長期のあいだは若芽を守るために葉は革のようにつるつるで、たくさんの棘で体を覆っている。やがて丈が伸びて草食動物に食べられる危険がなくなると棘がなくなり、そのぶん栄養を蓄えて光合成の効率をあげる。
セイヨウヒイラギのように、同時に異なる形状の葉をつける現象を異形葉性と呼ぶ。このような現象がどうして起こるかスペインの科学研究最高評議会(CSIC)が調査を行った。
 調査の段階で、一部の木には、野生のヤギやシカが食べたとみられる形跡があった。こうした木では、根元の近くから高さ2.5メートルまでの葉はトゲが多く、それより高い位置にある葉にはトゲがないものが増える傾向があった。研究チームはさらに、ヒイラギの木がこれほどまで迅速に葉の形を変えられる仕組みの解明を目指した。
 その結果、動物による捕食とトゲのある葉の発生はDNA内でメチル化と呼ばれる化学的プロセスに関連性があることが判明した。