庭の隅に花姿のよく似た植物が並んで咲いている。どちらも草丈は十数センチメートルで、茎は四角。シソ科の特徴を表している。ホトケノザとヒメオドリコソウである。どちらもシソ科オドリコソウ属の一年草または多年草であり、雑草扱いされている。 ホトケノザは北海道を除く日本全土に自生。道端や田畑の畦などによく見られる。四角断面の茎は柔らかく、下部で枝分かれして、先は直立する。春、上部の葉腋に数個、長さ1.7~2cmで紅紫色の唇形花を輪生する。すなわち花は上唇と下唇を開いた口のような形をしている。そして下唇には美しい模様が描かれていて、ハチがこの模様に惹かれて、下唇に着地する。上唇には花の奥に向かってガイドラインと呼ぶ線が引かれている。これは花の奥に蜜があることを示す道標である。花冠の筒部は細長い。ハチが蜜を探して奥に進むと、上唇の下に隠れていた雄しべが下がってハチの背中に花粉を付ける。 しかし、ハチが必ず訪れるという保証はない。そこでホトケノザはさらなる保険をかけている。 ホトケノザは極めて繁殖力の強い植物である。それは花の下部に蕾のままで結実する閉鎖花を持っているからである。すなわち閉鎖花の中で自ら受粉して種子を作るからである。 閉鎖花は数が多く、季節を問わず発芽する。 さらに種子にはエライオソームというアリが好む物質を付けている。アリは種子を巣に運び、エライオソームを食べ終わると、種子を巣の外に捨てる。これでホトケノザは分布域を広げていく。自分では動けない植物の知恵である。 ホトケノザという名前の由来は茎を取り巻いて生える上部の円形の葉の形が仏様の座る蓮華台に似ていることからである。春の七草のホトケノザは本種ではない。それは牧野富太郎博士がキク科のコオニタビラコとしている。 一方、ヒメオドリコソウはヨーロッパ、小アジア原産で、明治に渡来した帰化植物である。明治中期(1893)に、東京で野生化している状態が発見された。 ホトケノザの葉はまわりがギザギザの円形で、葉に葉柄がなく葉の基部が茎を抱くように生えているが、ヒメオドリコソウはトランプのスペード形の葉が茎の上部に集まっているのが特徴で、茎の下のほうの葉には、長い葉柄がある。 春早くから、葉のつけ根に突き出した唇のような形をした明るいピンク色の花を咲かせる。よく観察すると、筒のようになった先の上唇にあたる花びらは二枚の花びらが合体しており、下唇にあたる花びらは三枚の花びらが合体している。 この花と同じ形の花を咲かせる植物があり、その花を笠をかぶった踊り子に見立てて、オドリコソウと呼ばれる。オドリコソウの背の高さは、40-50cmで、花は大きく、見栄えがする。花の色は、白、薄いピンク、淡い紫色など多彩である。ヒメオドリコソウは、それよりも小型なので、「小さくかわいい」を意味する「ヒメ」を冠した名がついている。 この植物の発芽した芽生えには、生きるための巧みな工夫が凝らされている。背丈が小さい植物であるが、葉っぱの並び方にきめ細かな配慮がある。この植物を上から眺めると、葉っぱがうまく重ならないように生えていることがわかる。新しい葉っぱが出るときには、下の葉っぱを陰にしないような位置に出る。しかも、下の葉っぱほど、葉柄は長く、面積が大きい。おおげさにいうと、上から眺めると、すべての葉っぱが見えるようになっている。ということは、すべての葉っぱに太陽の光が当たるということである。 |