イチゴ(苺)


 
 イチゴの旬は春から初夏にかけてである。しかし、ハウス栽培のおかげで12月には店頭に並び始める。クリスマスケーキには欠かせない果実でもある。イチゴはバラ科オランダイチゴ属の多年草である。

イチゴは果物でしょうか、野菜でしょうか?
 植物学の分類では、木(木本類)になる果実は果物、草(草本類)になるものは野菜と区別されている。この分類に従えば、イチゴは野菜になる。行政上の分類はこれを利用して統計を取っている。しかし、一般的な 感覚としては納得出来ない。
 これに対し、農林水産省では日本標準商品分類で農産食品を野菜と果実に分類している。そして野菜の中でイチゴやスイカ、メロン等を「果実的野菜」とし、ユズやスダチ、カボスなどの調味料として利用出来る果実を「香辛的野菜およびつまもの類」としている。 基本的には、植物学的な分類を利用しているのだが、「果実的野菜」や「香辛的野菜」などという分類で少しは違和感を和らげようとしている。
 果物屋で売る物が果物、八百屋で売る物が野菜という分類もあり、一般的な感覚に近い。しかし、果物屋で野菜、八百屋で果物が売られていることもあるので難しい。
 デザートやおやつとして食べるものを果物、総菜(おかず)として食べるものを野菜とする分類もある。サラダにフルーツを入れる場合はどちらになるのだろうか。柿を膾(なます)に入れる和食の場合の柿は野菜になるのだろうか。
  調理従事者の場合は、調理するものが野菜(ただしサラダ等の例外あり)、そのままで提供するものが果物(こちらも、ジャム等、火を通す場合あり)、クリは野菜でも果物でもなく、ナッツ類に分類している。
 全国農業協同組合連合会によると、一般に、野菜はいろいろな部分を食べるのに対して、果物は実だけを食べるのが特徴という。
 例えばキュウリやエンドウは実、ダイコンやゴボウは根、キャベツやレタスは葉というように、野菜の食べる部分はさまざまだが、果物は必ず実を食べる。
 科目別に分類する場合、イチゴはバラ科(リンゴやナシと同じ)なので果物、トマトはナス科なので野菜、スイカ、メロンはウリ科なので野菜、クリはクリ科でナッツ類となっている。

 結局、分類の方法によって違うのだから、自分の思った分類でよいということのようだ。

 イチゴは高さ20㎝ほどに成長する。葉は有柄の根生葉で三出掌状複葉。葉腋より匍匐枝を出し、数か所小株をつけ繁殖する。晩春に花茎を出し、先端に数個の白い花をつける。花後、花床(かしょう)が肥大して果実(正確には果実ではなく偽果)となる。種子は小粒で果実の表面にあるゴマのようなツブツブである。イチゴは江戸時代末期(1840年頃)にオランダから長崎に渡来した。しかし栽培されるようになったのは明治以降である。植物学上、このイチゴをオランダイチゴという。オランダイチゴは、オランダの農園で18世紀にバージニアイチゴという北米産のものと、チリイチゴというチリ産のイチゴの種類の違うイチゴをかけあわせて誕生したものである。元々野生のイチゴだったものをかけあわせたら、それまでのいちごの大きさの10倍にもなった。味もとてもよくなり、徐々にいちごの人気が出てきて、世界中に広まっていった。
 1896年から、日本では静岡県の日本平の斜面を利用して石を積み、そこにオランダイチゴの早生(わせ)品種を植える促成栽培法が始まった。それが石垣イチゴである。この地域は温暖であり、かつ石垣による輻射熱を利用したので、イチゴの促成栽培に適していた。
その後、イチゴの栽培は温室型の促成栽培が主流となり、日本全国に広がっていった。現在では、収穫量の多い順に栃木県、福岡県、熊本県の順で、静岡県は第4位になっている。

 食用として供されている部分は前述のように、花床であり果実ではない。イチゴにとっての果実は一見して種子に見える表面のツブツブ一粒一粒であり、正確には痩果という。
花床は花柄(かへい)の頂端にあって、花弁、雄しべ、雌しべ、萼(がく)などをつける部分で、花托(かたく)ともいう。この花床は、本当の果実であるツブツブの痩果の数が多いほど肥大する。それは種から花床を肥大させる物質が出ているからである。この物質をオーキシンという。オーキシンは植物ホルモンの一種で、植物の成長を促進させる働きを持っている。

 章姫、紅ほっぺ、とちおとめ、あまおう等々、現在日本で流通しているイチゴは全てオランダイチゴを品種改良したものである。

 ビタミンCの多い果物として、レモンがあげられるが、レモン果汁が100グラム当たり約50ミリグラムのビタミンCを含むのに対し、イチゴは62ミリグラムも含有していて、イチゴは「ビタミンCの王様」といわれる。普通サイズのイチゴは1粒約20グラムだから、1日に8粒ほどのイチゴを食べれば、1日に必要といわれる100ミリグラムのビタミンCを摂取できることになる。また、岐阜県で開発された「美人姫」という品種は1粒80グラムもあるので、2粒で十分ということになる。