カキノキ(柿の木)


   
 柿は秋を代表する味覚の食べ物である。大正時代までは柿は日本の果物の第1位だった。現在は、みかん、リンゴ、ナシに次いで、柿は第4位の生産量である。柿の学名はDiospyros kaki Thumb.である。属名のDiospyrosは「神々の食べ物」の意。種小名kakiは和名のカキからである。ヨーロッパ諸国ではkakiで通じる。
 学名から考えると、柿の原産地は日本のようである。しかし、多くの植物図鑑や事典は中国原産としている。異論もあり、日本、中国を含む東アジアが原産地だとする説もある。中国を原産地とする説では、日本には古く奈良時代に渡来したとする。日本も原産地の一つだとする説では、山地に自生するヤマガキがそのルーツだとしている。中国原産説では、ヤマガキは中国から渡来した柿の栽培種が野生化したものだという。
 
 『万葉集』に柿が歌われていないことから、奈良時代には柿はなかっという説もある。しかし、歌聖と言われた柿本人麻呂の名前の中に「柿」が使われているので柿があったことは間違いない。『新撰姓氏録』(815)には「家門に柿樹があり、それによって柿本となす」と由来が書かれている。

 柿はカキノキ科カキノキ属の落葉高木であり、学術名(植物学上の名前)はカキノキである。幹は直立して高さ4~10mになり、上部で枝分かれする。葉は互生し、長さ10cmの楕円形で、秋には紅葉して美しい。6月頃淡黄色の壺形の花を開く。雌雄同株だが、株によって雌雄異株のように見えるものもある。果実は花後すぐに青い実をつけ、そして秋に、ほとんど葉の落ちてしまった後に径3~10cmの多肉の液果で、赤黄色に熟す。

 カキはカロチンを含み、利尿効果があり、二日酔いにも効く。またビタミンCの含有量は、100グラム当たり70ミリグラムで、リンゴの23倍、温州ミカンの2倍もあり、「ビタミンCの王様」であるイチゴとほぼ同じである。「1日の摂取目安量」といわれるビタミンCの量は100ミリグラムであり、カキは1個で150グラム前後だから、1個食べれば十分ある。
 へたは漢方で柿蒂(してい)と呼び、しやっくり、夜尿症などに用いる。柿渋はしもやけに塗布するとよい。干し柿の表面の白い粉を集めたものは柿霜餅(しそうへい)と呼び、去痰、咳止めの薬とする。
 葉は茶の代わりとして加工され飲まれることがある。葉にはビタミンA、Cを含み、血液の浄化によく、血圧降下作用がある。果実の皮を干し、炒った後、煎じたものは糖尿病患者用の甘味料とされる。果実はタンニンを多く含み、カキの渋は家具調度品や紙などの強化剤や防腐剤に使われていた。材は堅く緻密で、家具や器具の用材になる。

 カキは元々渋柿しかなかった。鎌倉時代に、日本で渋柿の突然変異種として甘柿が誕生した。渋柿は寒さにも強いが、甘柿は寒さに弱く暖かい地方でしか栽培されていない。渋柿は渋抜きをするか、干し柿にして食べる。
カキは1000種を超える品種がある。しかし、そのほとんどが渋柿である。なぜなら、渋柿が遺伝的に優勢で、甘柿は劣勢だから、交配すると渋柿が生まれてくる確率の方が高いからである。

 カキの渋みの成分は、クリの渋皮の成分と同じで、「タンニン」という物質である。渋柿というのは、タンニンが果肉や果汁に溶け込んでいるものである。
 果肉や果汁に溶けているタンニンには、溶けない状態の「不溶性」に変化する性質がある。タンニンが不溶性の状態になると、タンニンを含んだカキの果肉や果汁を食べても、口の中でタンニンが溶け出してこないので、渋みを感じることはなくなる。果肉や果汁に溶けているタンニンを不溶性の状態にすることを、「渋を抜く」という。
 だから、「渋柿が、渋を抜かれて、甘柿になる」という現象がおこっても、甘さが増すわけではない。また、渋みの成分であるタンニンがなくなるわけではない。渋みが感じられなくなり、渋みのために隠されていた甘みが目立つようになるだけである。
 タンニンを不溶性にする物質が、「アセトアルデヒド」という物質である。これはお酒に含まれるアルコールが体内に吸収されて血液中に入り、アセトアルデヒドになり、「酔う」と表現される症状をひきおこす元凶である。顔が赤くなったり、心拍数が増加したり、動悸が高まったり、二日酔いになるのは、この物質のためである。
 いっぽう、渋柿の中に発生したこの物質は、果肉や果汁に溶けているタンニンと反応して、タンニンを不溶性の状態に変える。カキの実の中で、タネができあがるにつれて、アセトアルデヒドという物質がつくられてくる。
 アセトアルデヒドによって、タンニンが不溶性のタンニンに変えられた姿が、カキの実の中にある「黒いゴマ」のように見えるものである。これは口の中で溶けないので、食べても渋みを感じることはない。黒ゴマのような黒い斑点が多いカキの実ほど、渋みは消えている。
 こうして、渋いカキは自然に甘くなる。カキの実は、タネができる前の若いときには、虫や島に食べられないように渋みを含み、タネができあがってくると、鳥などの動物に食べてもらえるように甘くなりタネを運んでもう。

 カキの品種が多いのはカキが重要な甘味食品だったからで、干し柿にすれば保存も可能だった。農家の庭には柿の木を植えて育てていた。江戸時代には渋抜きの方法も発達し、日本中に広がった。地方によって種類の違うカキが植えられた。
 カキが身近な木となったため、カキにまつわる風習や習慣、言い伝えは多い。
 串柿を正月に鏡餅と共に供えたり、小正月には成木責めを行う所が多い。成木責め(なりきぜめ)は実のなる木、すなわち果樹を責めて、実のなることを約束させる儀式。かつては全国的に小正月(1月15日)の大事な儀式であった。責められる木はたいてい柿の木。その家の主人と子供が柿の木のそばに行き、主人が鉈(なた)や棒で柿の木を叩き、「成るか成らんか、成らんと切るぞ」と責める。すると子供が柿の木の精霊になって、「成ります、成ります。成るからかんべんして下さい」と答える。こうして約束が成立すると、柿の木にお神酒(みき)が供えられた。
「柿の木から落ちると死ぬ」という俗信は日本各地で広く伝えられている。
 カキを食べる夢を見ても病人が死ぬとか葬式があるなどという。枝が折れやすいことと、この木が神聖視されていたことが伝承の背景にある。
「柿の種をいろりに入れるな」も同様で、火にくべると目や歯にたたるといわれる。
 「木守柿」といって、熟れきっだ赤い実を一つだけ木に残しておく風習がある。これはやがて新しい命に増殖するということ、神への供え物、野鳥のための思いやりなどの意味をもっている。



会津見不知(あいづみしらず)
福島県会津美里町周辺で古くから栽培されてきた渋柿の一種。外見は富有柿に似ている。やや腰高で上から見ると丸く、横から見ると扁平なハート型。
 渋柿なので、焼酎や炭酸ガスを使い渋抜きされたものが青果として出荷され、干し柿用はそのまま皮を剥いて干される。
 果肉はどちらかと言えば柔らかく、サクサクではなく少しねっとりとした歯触りで、舌触りはなめらか。甘さは熟し具合によって差があるが、甘過ぎず程よい感じに口に広がる

四ツ溝(よつみぞ)
静岡県の愛鷹(あしたか)山周辺に自生していた渋柿の一種とされ、それを農家が自家用として庭などで栽培されてきたものが昭和30年代に商品として栽培出荷されるようになったと言われている。渋柿なので干し柿にするか渋抜きしないと美味しく食べられない。
名前の由来は果実の形で、横に切った断面が角の丸い四角で、果実の4つの側面に西条柿などと同じように浅く溝が入っているため。
また駿東郡長泉町では「するがの柿」とも呼ばれている。

妙義黒天目(みょうぎくろてんもく)
中国原産のカキ。古くからある黒系の代表的な品種。実の色は、緑、橙、黒天目、黒と変化する。

衝羽根柿(つくばねがき)
別名:ロウヤガキ、ロウアガキ、老鴉柿(中国名)、姫柿(商品名・商標登録)
中国浙江省、江蘇省原産、日本への渡来は1943年頃。
実に付いている萼が羽根突きの羽根の形をしているのでこの名がある。
果実は小さく長さ3~5センチの尖った楕円形で、橙黄~橙紅色または濃赤色をしていて、萼の方が実よりも大きく、反り返っている。
雌雄異株で、雌株だけでも果実は付くが、種子はできず、熟す前に落ちてしまう事が多い。
渋柿で熟しても美味しくない。

黒柿(くろがき)
甘がき。完熟すると黒くなり糖度16度もある。原産地不明。

銘木とされる黒柿とは別のもの。
通常の渋柿の木の中の色は白だが、稀に黒い杢(もく、木目の模様のこと)が現れることがあり、これを黒柿という。
白い渋柿が、樹齢を重ねていくうちに、土の中の鉄分や、微生物の影響を受けて、中心部から黒く変色するもの。その希少性は高く、1万本に1本くらいの確率といわれており、そのため高額で取引されている銘木である。黒檀の代用ともされる。