クチナシ(梔子、山梔子)


  クチナシ

 アカネ科クチナシ属の常緑低木。高さは2mほどになる。静岡県以西の山地に自生。6-7月、枝先の葉腋に1個ずつ白い花を付ける。香りが強い。花冠は6裂し、蕾の時は裂片はねじれている。花の香気は花冠に含まれる精油によるもので、特に夜間によく匂う。
花後、長さ4cmほどの楕円形の果実となる。果実になるまで萼が残り、6本の萼片が角のように長く突き出している。果実は冬に黄赤色に熟す。
 クチナシはこの実が開かない(口無し)ことによるとの説がある。別の説では、角のような萼をクチバシに例え、「クチが付いているナシ」からとする。ナシはかつて木になる果実の一般名として使われていた。ナシ(梨)もそうだが、他にアズキナシ、ヤマナシ、サルナシなどがある。
 将棋盤や碁盤の脚はクチナシの実の形をしている。これは対局中に他から「口を出すな」との戒めとされている。

 クチナシの漢名は山梔(さんし)、その花は梔子花(シシカ)と言う。日本では梔子と書く。梔と巵は同義。巵は古代中国で用いられていた酒の貯蔵容器で、子は木の実のこと。この容器がクチナシの実に似ていたからだという。

 クチナシは黄色の染料や薬用として、「日本書紀」や「肥前風土記」、「延喜式」に記述が見える。平安時代には黄色の染料として大量に使用されていた。現在でもクチナシの実は無毒無害ということもあって、沢庵やラーメン、キントンなどの着色に使われている。
多くの漢方処方に用いられ、この実を乾燥したものを「山梔子(さんしし)」と呼び、止血、鎮静、炎症を和らげるなどの薬効をもつ。花は大きく香りがよいので花飾りや香料にまた、乾燥させてお茶の香りづけに使われる。
 クチナシはジンチョウゲ、キンモクセイと並んで三大芳香花とされる。クチナシの主な芳香成分は酢酸ベンジルとリナロールである。酢酸ベンジルは多くの花に見られ、特にジャスミンや、シャネル5番にも使われるイランイランなどに含まれる精油の主成分である。リナロールは、シソ科、クスノキ科、およびミカン科などの植物から得られる精油の主要成分であるモノテルペンアルコールである。このことから、クチナシから香水の原料としての抽出が試みられたが、精油の収量が少なく採算がとれないので断念された。

 貝原益軒の「花譜」(1973)には花を食用にするとの記述があり、生食にするほか、煮たり塩漬けにして食べるとある。

花を観賞するようになったのは室町時代中期以降で、古典学者・一条兼良の『尺素往来』(せきそおうらい)に庭に植えていたとの記述がある。

作品は園芸品種の八重咲きのクチナシ。八重咲きのクチナシからは実がならない。