クワイ(慈姑)

   クワイ

 朝のテレビの報道番組で、女子アナウンサーが野菜の収穫を取材していた。胴付長靴を着用し、手には口径の大きなホースを掲げている。そして泥水の田に入って行った。田はそれほど深くなく、膝あたりまでしかない。「さて、何の野菜を収穫するのでしょうか?」と、スタジオの出演者に問いかける。これまでにも見たような光景で、レンコンの収穫かと思った。スタジオからもレンコンという回答が寄せられた。
 ホースから放水が始まると、女子アナウンサーは勢いのある放水で、後ろに倒れてしまった。起き上がると体勢を立て直して、もう一度田の底に放水を始めた。農家の人が後ろに控えて助けている。泥水の中から茎が浮き上がってきた。手を泥水の中に突っ込んでやっとつかみ取ったようだ。上に掲げると、思っていたより小さく、ピンポン球くらいの丸いものだった。クワイだった。

 クワイはオモダカ科オモダカ属の水性多年草で、泥水の貼った水田で栽培される。中国原産で、クワイはオモダカの栽培変種である。高さ60-90cm。葉は根元から叢生し、葉形はオモダカによく似ておりやじり形で長さ20-30cm。秋、葉の間から花茎を出し、白色の花を円錐状につける。淡い藍色の塊茎を冬から春に収穫して食する。クリに似た味でほのかに甘く、特有の苦味あり、きんとんや天ぷら、くわいせんべいなどにする。
クワイには主として、直径5cm程度で日本の主要品種であるアオクワイ(新田クワイ)、中国で栽培されるシロクワイ(シナクワイ)、大阪の吹田で栽培され小型で形のよい吹田クワイ(姫クワイ)の3種がある。
主産地は広島県で生産は全国の60%を占める。次いで埼玉県で27%である。

 中国料理に使われるクログワイはカヤツリグサ科のオオクログワイで別科である。
 くちばし形の芽があるため「芽が出る」「目出度い」祝いの野菜とされ、と縁起を担いで正月の煮染めや祝儀の折り詰めなどに使われる。
 つやがよく。あまり大きすぎないもの、芽の部分がまっすぐに伸びてしっかりしているものが良質。アオクワイの方がシロクワイよりも肉質、食味ともにすぐれている。芽は縁起物なので決して切り落とさず、つけたまま料理する。
アクが強くすぐに色が悪くなるので、米のとぎ汁か小麦粉少量を加えた熱湯で5~6分下ゆでをしてから調理する。

 クワイの語源は、収穫した外観が農機具の鍬(クワ)に似ていることから「鍬芋」(くわいも)と呼ばれたのが、転訛してクワイになったという説。新井白石は「東雅」の中で、ヰはイモの転じたものと説明したのち、「クワは鍬也。その茎葉をつらね見るに、鍬の形に似たる故也」と述べている。
 葉が藺(イ)に似て食用になることからとか、河芋(かわいも)が変化したという説、クワイグリから転じた等の伝承がある。
 日本へは平安初期に中国から伝来したという説、16世紀に朝鮮半島より伝わったという説がある。