キョウチクトウ(夾竹桃)


    広島に原爆が投下され、焦土と化した街に最初に花をつけたのはキョウチクトウだという。キョウチクトウには樹木に侵入してきた細菌を撃退する成分が含まれている。このため、公害や排気ガスに強い。またこの木は、挿し木で容易に増やせることもあって、街の中で庭木や街路樹として広く植えられてきた。
 キョウチクトウに含まれている成分はオレアンドリンという。この植物の英語名の「オレアンダー(Oleander)」にちなんだ名前である。オレアンドリンは有毒物質である。この物質のおかげで、細菌の侵入を防ぐだけでなく、虫に食べらることもない。また体重60kgの成人なら18mgが致死量である。このためいくつもの逸話を残している。

・古代ギリシアのアレクサンダー大王率いる軍隊は、キョウチクトウの枝を串にして肉を焼いたところ多くの兵士を失ったという。
・同じような話がフランスにもある。フランスで普仏戦争の時、野外でバーベキューをしたところ、串が不足したので、キョウチクトウの生枝を串にして肉を焼いて食べたところ11人中7人が死亡するという中毒事故が報告されている。
・西南戦争の時、官軍の兵隊がこの箸で弁当を食べ、中毒者を出したという記録がある。
・昭和44年(1969)、佐世保市がキョウチクトウを市の花に指定した直後に牛が葉を食べて中毒死し、物議を醸した。(現在、佐世保市の市の花はカノコユリになっている。鹿児島市、千葉市、広島市がキョウチクトウを市の花にしている)

 キョウチクトウはキョウチクトウ科キョウチクトウ属の常緑低木で、インドからペルシア地方が原産である。日本には江戸時代の寛政年間(1789~18019)に中国から渡来したとされるが、「本草薬名備考」(1678)や寺島良安「和漢三才図会」(1713)にその名が見える。キョウチクトウは漢名の「夾竹桃」の音読みである。葉が竹の葉のように細く、花が桃の花に似ているところから来ている。「夾」の字には二つのものを合わせるという意味がある。

 花期は6~9月と長いが、梅雨時はしぼみ、梅雨が明けたらまた咲き出す。枝先に白やピンク色の花を咲かせる。花冠は筒状鐘形で、先が5裂し、芳香がある。

 仏典には「歌羅毘羅樹(からびらじゅ)」の名で登場し、悪人にその花輪をかぶせた。同じようにインドでも罪人にこの花で作った花輪をかぶせたり、火葬場に送る死者の顔をこの花で覆ったりしたという。イタリアやギリシアでも葬式の花とされている。中国では邪気を払う植物として寺院などに植えられる。