マンサク(満作)

 
   
 カレンダーも無かった昔の人は花の咲く時期で、季節の移ろいを知った。春の訪れを知らせる花はいろいろあるが、マンサクもその一つである。
マンサクの語源は明らかでないが、早春に咲くことから、「まず咲く」「まんずさく」が東北地方で訛ったものともいわれている。
また、枝にいっぱい花を咲かせることから「豊年満作」に見立てたとする説。
 江戸時代には黄金色に垂れた花弁を稲穂に見立て、シイナ(粃/秕)とかシイナバナと呼んでいた。シイナとは殻ばかりで中身のない籾(もみ)のことである。これは忌詞(いみことば)であったから、これを嫌って反対語の満作(マンサク)と改められた、などの説がある。
春の花は稲作を占う予兆として眺められ、「マンサクの花が上向きに咲いた年は豊作」(山形・福島)、「マンサクの花が多く咲くと豊作」(山形・宮城)、「マンサクが咲かない年や少ない年は凶作」(山形・宮城)などといわれる。



           花の中心部

田中肇「山里の野草ウォッチング」(北隆館)より 
 
 マンサクはマンサク科マンサク属の落葉小高木で、高さ約3メートルほどだが、成長すると6メートルに達する。日本の固有種である。北海道渡島半島、本州の太平洋側から九州の山林に多く自生するほか、花木として栽培もされる。
 葉は互生し、菱形状の楕円形で波状の鋸歯がある。葉は左右不揃いで、歪んでいる。
 2-3月に葉に先駆けて花が咲く。花には萼、花弁と雄しべおよび仮雄しべが4本ずつあり、雌しべは2本の花柱を持つ。4本の雄しべの葯は円い蓋が開き、蓋の裏に花粉を付けている。訪れる昆虫は小形のハナバチやハエの仲間、甲虫である。昆虫は花の中心に頭を入れ、花粉を付ける。萼は赤褐色または緑色で円い。花弁は黄色で長さ2~2.5cmほどのひもがねじれたような線形の四弁花。ただ、4輪ほどがくっついて咲いているので、花弁は十数本あるように見える。9~10月、果実は卵状球形の朔果で、2個の大きい種子を含む。熟すと二裂し黒い種子をはじき出す。

葉はタンニンを含み、収斂止血剤になり、内臓出血、痔などに用いるという。
樹皮は強靱なため、河川工事の蛇籠(じゃかご:籠の中に砕石を詰め込んだもの)に使われたり、筏を組んだり、炭俵や薪を束ねるのに使われた。
飛騨白川郷の合掌造りの家は釘を使わずに梁や桁をネソで縛り合わせるという。このネソはマンサクのことで、マンサクの樹皮や枝を使っている。