マツムシソウ(松虫草)


    マツムシソウはマツムシソウ科マムツシソウ属の多年草で、日本全土の日当たりのよい山地の草原に自生する。日本の固有種である。草丈はおよそ60-90 cmで、葉は対生し、羽状に裂ける。夏から秋にかけて茎の先に1個の紫色の頭花をつける。花の構造はキク科の花によく似ている。キク科の花は全て小花の集まりである。花の中央にある管状花(筒状花)と周りにある舌状花から成る。マツムシソウの頭花も全て小花の集まりである。キク科の管状花に該当する中心花も舌状花に該当する周辺花にもキク科と同じように雌しべ、雄しべがある。周辺花の裂片は大きな唇状となって花弁のように見える。
 キク科の花では雄しべの花糸は独立しているが、葯は隣同士が合着して筒状になっている。それに対し、マツムシソウでは4本の雄しべがそれぞれ独立していて、葯は花糸の先にT字形に付いている。
 花は周辺花から咲き始め、中心花へと同心円状に咲いていく。雄性先熟で、雄しべが出て花粉を出し切ったら葯が散り、雌しべの柱頭が立ち上がる。このようにして、同花受粉や隣花受粉も避けている。

 マツムシソウという花の名前の由来は、松虫の鳴く頃に咲くからとか、巡礼の持つ松虫鉦(まつむしがね)の形がこの花の頭花に似ているからとする説がある。
では、松虫鉦の名前はどうして付いたのか。この鉦の音を聞くと、チンチンチンチンと聞こえる。人によってはリンリンリンと聞こえるかもしれない。この鉦の名前は松虫の鳴き声に似ているからのようだ。




文部省唱歌に「蟲の声」という歌がある。

あれ松蟲が鳴いてゐる。
  ちんちろちんちろ ちんちろりん。
  あれ鈴蟲も鳴き出した。
  りんりんりんりん りいんりん。
  あきの夜長を鳴き通す
  あゝおもしろい蟲のこゑ。

松虫の鳴き声、少し違うようにも思えるが、似ているようにも思える。聞く人によって表現が変わるのは仕方が無いかもしれない。松虫と鈴虫は同じコオロギ科の昆虫で、よく似ているが松虫の方が少し大きいようだ。松虫の体長は19~33mm、鈴虫の体長は17~25mmだという。ただ、かつては松虫と鈴虫は混同していて、松虫を鈴虫、鈴虫を松虫と言っていたこともあるようだ。

 マツムシソウの学名はスカビオサ(Scabiosa)、「かさぶたのある」という意味である。あまりいい名前では無い。この花を皮膚の疾患である疥癬の薬にしたからだという。

 マツムシソウは日本全国に分布していると言うが、今や絶滅の危惧が心配されている。
京都府や福岡県で絶滅し、それ以外の都道府県でも絶滅危惧種にあげられている。