マユミ 美術館の近くにマユミの木がある。初夏には白っぽい小さな花が咲くが、地味なのであまり目立たない。秋になると薄茶色の四角い実を鈴なりにつける。秋が深まると、実は淡紅色に色づく、葉も紅葉し、少し目を楽しませてくれる。 マユミはニシキギ科ニシキギ属の落葉低木か小高木で、日本全土の山野に生え、高さは普通3~5m、大きいものは15mに達する。雌雄異株。枝には白い筋がある。葉は対生し、楕円形または倒卵状楕円形で縁に細かな鋸歯をもつ。初夏、葉腋から花柄が伸び、長さ3~6cmの集散花序を出し、緑白色の小花をまばらに付ける。雌株は秋に四角形の果実をつけ、淡紅色となる。熟して4つに裂けると、赤い仮種皮に包まれた種子が現れる。マユミ(真弓)の名はこの木の枝が弾力があって折れにくいので弓を作ったことによる。マユミで作った弓は弥生時代の遺跡からも出土している。ただ、平安時代の初期頃まででそれ以降は作られていない。 万葉集にも歌われている。 陸奥(みちのく)の 安達太良真弓(あだたらまゆみ) はじき置きて 反(せ)らしめ来なば 弦(つら)はかめかも (読み人知らず 巻14.3437) 「陸奥の安達太良山産出の弓の弦(つる)を外しておいて反(そ)らして置いたなら、弦をつけることができるだろうか、いやできない」 一旦、男女の仲が疎遠になったら、もとの鞘に収まることはない、このまま緊密な関係を維持しようという意を込めた比喩の歌。 万葉集にはマユミの歌が12首あるが、いずれも弓に関係した歌である。 マユミは檀とも書く。檀(だん)とは太くてずっしりとした木の意であり、白檀や黒檀の檀に使われ、香木をも意味している。日本では檀をマユミに当てている。 材は緻密で堅いので、将棋の駒、こけし、玩具、箱などにも用いる。 またかつてはその若い枝の樹皮繊維を原料として和紙が作られた。檀紙(だんし)という。檀紙は、厚手で美しい白色が特徴である。「みちのくのまゆみ紙」とも言われた。 『源氏物語』や『枕草子』にも「陸奥紙」として登場するなど、平安時代以後、高級紙の代表とされ、中世には讃岐国・備中国・越前国が産地として知られていた。なお、徳川将軍による朱印状も原則として檀紙が用いられていた(高山寺・大覚寺の所領安堵朱印状など)。 ただ現在では、檀紙は楮を原料としていて、マユミは使われなくなった。 樹皮をはがし、乾燥したものを粉末にひいて生薬とし、駆虫、鎮痛、せき止めなどに配合されるという。 また、マユミの実は有毒で、食べると吐き気や下痢を起こすという。長野市には姑が嫁に食べさせて殺したという民話が残っている。ただ、毒の成分は明らかではない。 マユミの若葉や新芽は和え物、煮物、天ぷら、佃煮、菜飯などにして食べられる。 |