ウンシュウミカン(温州蜜柑)


 
  みかんの花が 咲いている
  思い出の道 丘の道
  はるかに見える 青い海
  お船がとおく 霞んでる

 童謡「みかんの花咲く丘」は、美術館から車で1時間足らず北に行った伊東市宇佐美にある亀石峠がモデルだという。
「みかん」はミカン科ミカン属の植物の総称であるが、現在ではウンシュウミカンを指している。甘い柑橘ということから漢字では「蜜柑」と表記される。古くは「みっかん」と読まれたが、最初の音節が短くなり「みかん」となった。
 ミカンの花は5月の上~中旬頃に香りの高い3cm程の白い5花弁の花を咲かせる。日本にはミカン科ミカン属の植物としては、タチバナ(橘)と琉球諸島にシークワーサーが自生しているのみである。タチバナは生食には向かないので、古代の日本人はみかんを食べていない。
生食できるミカンのふるさとはインドのアッサム地方とされ、そこから東南アジア、中国へと伝わり、古くから栽培されていた。日本へは中国の浙江省から肥後国八代(現・熊本県八代市)に小ミカンが伝わったとされるが、いつの頃かは分からない。室町時代に記された伏見宮貞成親王(後崇光院)の『看聞日記』(1418年、応永26年)に「蜜柑」の記述があるので、それ以前に伝わっていたことは確かである。この小ミカンが15 - 16世紀頃に紀州有田(現・和歌山県有田郡)に移植されキシュウミカンと呼ばれるようになった。ミカンが日本に広まったのはこのキシュウミカンであり、紀伊国屋文左衛門がミカンんを正月に間に合わせるべく荒海を押して江戸に船で運び富を築いたとされる話もこのキシュウミカンである。ただこの話は後の創作であったらしい。
ウンシュウミカンは江戸時代の初期に中国から渡来した柑橘類の変異種と言われる。元のミカンには種子があったが、栽培しているうちに「種子なし」になった。
 「ウンシュウ」は、柑橘の名産地であった中国浙江省の温州のことであるが、イメージから名産地にあやかって付けられたもので関係はないとされる。原産地は日本の鹿児島県不知火海沿岸(現・鹿児島県出水郡長島町)と推定される。2010年代のDNA分析によって、ウンシュウミカはキシュウミカンとクネンボの交雑種であると推定された。
 しかし、ウンシュウミカンは江戸時代の人々には、「種子(子供)なし」は家が絶えるとして嫌われた。明治になって、皮が向きやすく、種子がなく食べやすいとして人気が出て、一挙に栽培が増えていった。
 ウンシュウミカンは主に関東以南の暖地で栽培される。温暖な気候を好むが、柑橘類の中では比較的寒さに強い。日本で一般的に使われているカラタチ台(接ぎ木をする台木)では2-4mの高さに成長する。秋になると果実が結実する。ウンシュウミカンの品種は100種以上にも及び、9月から翌年1月にかけて、極早生(ごくわせ)、早生(わせ)、中生(なかて)、晩生(おくて)の順に成熟し、出荷される。晩生になるほど糖度が増して甘くなる。
ウンシュウミカンは果物の中で第1位の生産量である。それでも1975年の366.5万トンあった生産量は2021年には76万トンと5分の1に減少してしまった。これはグレープフルーツやオレンジの輸入の増加とウンシュウミカンの輸出の減少が大きく響いてしまったためである。県別の生産量は和歌山、愛媛、静岡の3県の順で全体の50%を占める。
2位のリンゴとは僅差になり、いずれ逆転もありうる。

 冬、炬燵に入ってミカンを食べることが多い。ミカンの食べ方を見ていると、何となくその人の性格がわかるような気がする。皮をむいて、中の袋を2,3個ずつむしってそのまま口に放り込んで食べる人。中の袋についている筋を粗方とって、2,3個ずつ食べる人。筋を丁寧に取り去って、一つずつ食べる人。また袋をそのまま食べる人。口から出す人と様々である。
 





  ところで、ミカンを食べていて、この袋についている筋は何なのか。また正式にはこの筋を何というのか。袋にも名前があるのだろうかと気になりだして調べてみた。
 袋についている筋は維管束らしい。維管束は、根から吸い上げた水分や養分が通る道管であり、葉でつくられた栄養分を全身に運ぶ師管である。すると果実の中に果汁を送っているのはこの維管束らしい。
 袋は瓤嚢 (じょうのう) という。瓤は果実の子房や皮で包まれたもののことで、嚢は袋のことである。そして、袋の中の果汁の入った粒々は砂瓤(さじょう)という。
 外果皮にある粒は油胞(ゆほう)といい、中にはリモネンという柑橘系の香りを出す油成分が含まれている。また外果皮を乾燥させたものを漢方では陳皮(ちんぴ)という。陳皮にはポリフェノールの一種「ヘスペリジン」を含み、血行を良くしたり、食欲不振に効き、また血圧降下作用・咳止め効果・便秘の改善効果があるとされる。
ミカンはビタミンC、Aが豊富に含まれている。また筋(維管束)や 瓤嚢には植物繊維が含まれていて、栄養の上でも美容のためにも筋や袋をそのまま食べるのは理にかなっている。
 ミカンを大量に食べると皮膚が黄色くなることがある。これを柑皮症というが、一時的なもので、健康に悪影響はない。これは果肉に含まれるオレンジ色の色素であるβ-クリプトキサンチンによるものである。近年、この物質が肝臓機能を守る効果があることが分かった。毎日2個ほどミカンを食べていれば、肝臓の機能は正常に保たれるというから、飲兵衛には朗報である。