ムクゲ(木槿)


 
 アオイ科フヨウ属の落葉低木。中国原産とされるが、よく分からない。近縁の野生種が中国にある。花期は7〜10月。花の大きさは径5〜10cm、花芽はその年の春から秋にかけて伸長した枝に次々と形成される。花は五弁花で、朝に開き夕方には閉じる一日花である。花の寿命は短いが、次々と花が咲き花期は長い。普通紅紫色だが、白花や八重咲きなど多くの園芸品種がある。韓国では「無窮花(ムグンファ:窮することが無い花)」と呼ばれ、いつまでも咲き続けることを意味し、国花となっている。
 漢字では「木槿」と書く。中国名で、これは「僅少」の意味で、花の咲く時間の短いこと指している。
 果実は長さ1.5-2cmほどの先のとがった卵円形で、晩秋、実は熟すとからからに乾いて五裂する。中から長さ4-5mmくらいの勾玉のような形をした種子が飛び出る。種子の周りにはびっしりと毛が生えている。毛は風に乗って飛び散るためのものである。

 日本への渡来は平安時代以前と思われ、『和名類聚抄』(931年 - 938年)に木波知春(キハチス)の名で記録されている。

 万葉集にアサガオを詠んだ歌が5首記載されている。現在、私たちがアサガオとする植物は平安時代に薬用植物として渡来したものである。それでは、万葉集で歌われているアサガオはどんな植物なのだろうか。

 江戸時代、賀茂真淵(1696-1769)、貝原益軒(1630-1714)、鹿持雅澄(1792-1858)はムクゲとした。
これは平安時代中期の歌人で公卿の藤原公任(藤原北家小野宮流)が漢詩・漢文・和歌を集めた『和漢朗詠集』の秋の部「槿(むくげ)」に「おほつかな たれとかしらむ あさきりの たえまにみる あさかほのはな」という和歌が掲載されており、これによってアサガホをムクゲと考えた。

 この説が正しいなら、ムクゲは奈良時代に渡来していたことになる。

 しかし、山上憶良はアサガオを秋の七草の一つとして詠んでいて、木であるムクゲでは該当しない。
また、次のような歌があり、ムクゲのように夕方には花を閉じる植物とは合致しないことになる。

  朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 咲きまさりけれ    (読み人知らず 巻10.2104)
  (朝顔は朝露を受けて咲くというけれど,夕方の光の中でこそ咲きまさるものだなあ)

現在、万葉集に歌われたアサガオはキキョウが定説となっている。