ナンテン(南天)

 
 冬は花が少ない。冬の庭に色を添えるのは赤い実である。センリョウ、マンリョウ、オモトが赤い実を付ける。しかし、ひときわ多くの赤い実を付けているのはナンテンである。

 ナンテンはメギ科ナンテン属の常緑低木。一属一種。中国原産。日本では西日本、四国、九州に自生しているが、古くに渡来した栽培種が野生化したものだとされている。高さは2m位、高いもので3mほど。幹の先端にだけ葉が集まって付く独特の姿をしている。葉は互生し、三回羽状複葉で、小葉は広披針形で先端が少し突きだし、革質で深い緑色、ややつやがある。
 初夏、茎の先に大形の円錐花序を出し、白色の小花を多数付ける。花後、球形の液果ととなり、秋に赤色に熟す。
 ナンテンの音が『成天(ナルテン)』、または『難(ナン)を転(テン)じる』に通じることから昔から、円満成就や災難よけのまじない、縁起の木とされた。江戸時代中期の寺島良安による「和漢三才図会」には、「これを庭中に植えれば火災を避くべし。甚だ験あり」などと述べている。火災の多かった江戸の町には、ナンテンを植える家が多かったようだ。また、正月の掛け軸にはスイセンとナンテンを描いた「天仙図」が縁起ものとして好まれた。
 
ナンテンの園芸品種の作出が始まるのは元禄以降らしい。ただ伊藤三之丞はその品種としては「唐南天といひて近年珍しき種あり」と、一名をあげるにとどまる。百年余り後の文政十年(1827)、増田金太は「草木奇品家雅見」で、18の品種を図示した。さらに水野忠暁の「草木錦葉集」(1829)では、斑入りを主体に41品種にふえた。
 ナンテンブームは明治になっても衰えず、内山卯之吉と岡誠五郎が選んだ「南燭品彙」(1884)には、なんと120品種の名があげられている。現在はその3分の1ほどしか残されていない。

 赤飯の重箱を贈るのに搔敷きとしてナンテンの葉を敷く。これは縁起がよいと言うだけで無く、葉に含まれるナンディニンという成分に防腐効果があるためである。

 京都の鞍馬寺で6月20日に行われる竹伐り会式では、法師の腰にナンテンの枝葉を着ける。また、12月12日の火祭りの松明を担ぐ人々もナンテンの葉を身につける。竹伐り会式は寛平年間(889-98)峯延上人(ぶえんしょうにん)が修行中に、現われた大蛇を仏法の力で倒した故事に因む。長さ4メートル、太さ15センチ近くもある青竹を大蛇に見立て、僧兵姿の鞍馬法師が近江、丹波の両座に分かれ青竹を伐る早さを競い豊凶を占う。

 果実は苦く、アルカロイドを含み毒性があるが、漢方では熟果を干したものは南天実(なんてんじつ)といい、咳止め、喘息、百日咳に用いる。市販ののど飴に使われている。葉を干したものは南天葉(なんてんよう)と呼び、扁桃炎のうがい薬や、浴湯料として湿疹やかぶれに用いる。乾燥した果実の煎液は、漢方で鎮咳薬とされる。扁桃炎、口内炎、歯茎の腫れ、歯痛などには、生葉の煎液を冷まして何度かうがいをするとよい。あせもや湿疹などには、粗く刻んだ生葉を袋に詰めて浴槽に入れて入浴する。

葉に含まれるシアン化水素は猛毒であるが、含有量はわずかであるために危険性は殆どなく、逆に食品の防腐に役立つ。
 多量に摂取すると、痙攣、知覚麻痺、呼吸麻痺を起こし死に至ることもある。