オオバナオケラ 京都の八坂神社で大晦日の夕刻から元日の早朝に掛けて朮(オケラ)祭が行われる。除夜祭の後、「おけら灯籠」にオケラの根茎が夜を徹して焚かれる。その「オケラ火」を火縄(吉兆縄)に点し、火を消さないように縄をくるくると回しながら持ち帰り、無病息災を祈願して神前の灯明や正月の雑煮を炊く火種とする新年の習わしが「おけら詣り」である。燃え残った火縄は火伏せ(火難除け)のお守りとして台所に祀る。 オケラは邪気と悪臭を払い、疫病を除く効があるとされる。 オケラは本州以南の山地、朝鮮半島、中国東北部に自生するが、オオバナオケラはキク科オケラ属の多年草で、中国産である。茎は直立し高さ30-100cm。秋に枝先に白色または紅色の頭花をつける。鐘形の総苞の外側に羽状の刺の包葉がある。 また、オケラ、オオバナオケラ共に地下茎を乾かしたものを白朮(はくじゅつ)と呼び、鎮静・解熱の漢方薬として用いられる。このことから、オケラ祭は白朮祭とも言う。 オケラには白朮と蒼朮があり、オオバナオケラ、オケラは白朮系、ホソバオケラが蒼朮系である。オケラの花は2cm程だが、オオバナオケラは名前の通り3-4cmと大きい。 オケラ・オオバナオケラはキキョウやスミレと同じ満鮮要素植物といい、大陸に分布の中心をもつ草原植物である。 オケラは屠蘇の材料として使われる。正月に屠蘇を呑む習慣は、中国では唐の時代から確認できるが、現在の中国には見当たらない。日本では平安時代から確認できる。 「屠蘇」とは、「蘇」という悪鬼を屠(ほふ)るという説や、悪鬼を屠り魂を蘇生させるという説など、僅かに異なる解釈がいくつかある。数種の薬草を組み合わせた屠蘇散(とそさん)を赤酒・日本酒・みりんなどに浸して作る。 屠蘇散の処方は『本草綱目』では赤朮・桂心・防風・抜契・大黄・鳥頭(ウズ)・赤小豆を挙げている。しかし、大黄は便秘の漢方薬として使われるが、副作用もあり体力の衰えている人や妊婦には使えない。烏頭はトリカブトの根茎で猛毒なため調合を誤ると死に至る。従って、現在では山椒(サンショウ)・細辛(ウスバサイシン)・防風(ボウフウ)・肉桂(ニッケイ:シナモン)・乾薑(カンキョウ:ショウガの根茎)・白朮(オケラ)・桔梗を用いるのが一般的である。人により、健胃の効能があり、初期の風邪にも効くという。時代、地域などによって処方は異なる。 オケラの薬用部は根茎(白朮は外側のコルク層を除いたもの)。主有効成分は精油。漢法では重要な駆水剤(消化管内の停水を追いやり、吸収をうながすもの)とする。すなわち、①蠕動運動を増大させることにより、胃から十二指腸へと内容物を押し出し、また、腸管に適度の刺激と弛緩を与え、吸収をよくする、②門脈系の血流量を増やす、③アルデハイド類には消化管内の腐敗発酵阻止作用がある、との考えで、苓桂朮甘い湯(りょうけいじゅつかんとう)、苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)、胃苓湯(いれいとう)をはじめとして多くの処方に配合されている。 |