リンドウ(竜胆)

  リンドウ

 リンドウ科リンドウ属の多年草。日本の固有種。本州、四国、九州の山野に分布。
茎は斜上または直立し、高さ20-60cm。葉は茎を抱くように対生してつき、披針形で長さ3-10cm。秋、茎頂または上部の葉腋に、1~数個の先が五裂した鐘形の花をつける。裂片の間に副花冠という付属物があるため、やや複雑な輪郭となる。花色は青紫から紫紅色で、まれに白色。花の開くのは日の当たる時だけで、夜間や曇天には閉じる。雄しべが5本、雌しべが1本だが、自家受粉を避けるため雄しべが花粉を出し切った後に雌しべの柱頭が開く雄しべ先熟である。同属近緑にオヤマリンドウ、エゾリンドウなどがある。ササリンドウはリンドウの葉が笹の葉に似ていることから付けられた名前でリンドウの別名である。

 リンドウの初出は「出雲国風土記」(733)で、「龍膽」が産物として記述されている。ただ龍膽は竜胆の旧字であるが、リンドウと読まれていたかどうか分からない。
「万葉集」には何故だかリンドウを詠んだ歌はない。
平安時代に編纂された「本草和名」(918)、「延喜式」(927)、「和名類聚抄」(931-938)には衣夜美久佐(えやみくさ)の名前で記載されている。「えやみくさ」はリンドウの古名である。ただ「えやみくさ」がどういう意味なのかは分からない。
 「リンドウ」と呼ぶようになったのは「古今和歌集」(905-914)からで、平安時代初期頃と考えられる。「リンドウ」は漢名「龍胆」の音読みの転訛である。
「源氏物語」や「枕草子」にはリンドウの記述がある。

リンドウは世界の温帯や山岳地帯に約300種が分布している。古くから薬効が知られ、古代エジプトの墓から見つかったパピルスに書かれた薬の処方箋のなかに、リンドウの名がある。リンドウの中で根に薬効があるものは、古代から殺菌、強壮剤として用いられていた。キニーネが発見されるまでその代用とされ、ホップが使われるまではビールの苦みをつけるのに使われた。
 漢方でも、根を乾燥させたものを生薬として用いる。非常に苦く、漢名の「竜胆」は「熊の胆」より苦いという意味で熊より強い「竜」をもちいたといわれる。
 根茎および根を煎じたものが胃もたれや食欲不振など、主に消化器症状の薬用に用いられる。

 リンドウの学名ゲンチアナ(Gentiana)はこの植物とその薬効の発見者プリニウスによって、紀元前180-67年頃のイリュリアの最後の王ゲンティウスにちなんでつけられたものである。ゲンティウスはリンドウの薬効を最初に見つけ出した人であると言われている。