スイカズラ(忍冬)


   
 5月の半ば頃、美術館の周りを散策していると、ほのかな甘い香りが漂ってくる。香りの正体はスイカズラである。あちこちの木々に絡まって花を咲かせている。スイカズラはスイカズラ科スイカズラ属の常緑蔓性木本である。
 5~6月頃、葉腋に2個づつ芳香のある花を対につける。花ははじめ白色で日が経つと黄色くなる。花冠は横を向き、基の方は筒状で、先は5裂する。その内4本は上を向き、残り1本は下に垂れる。花には5本の雄しべと1本の雌しべがあり、花から突き出している。

 スイカズラの葉は冬にも枯れず、寒さにも耐えることから忍冬(ニンドウ)の名がある。これは漢名の忍冬に由来する。初夏にははじめ白く、時がたつにつれて黄色くなり、白花黄花が入り乱れて咲くことから金銀花とも呼ばれている。そして、管状になった花を引き抜き、管の細いほうから吸うと、甘い味がするのでスイカズラ(吸葛)の名が生まれた。

 スイカズラの花には蜜を吸うために、蝶や蜂が飛来する。夕方になると、強い芳香を放つ。これは夜行性の昆虫である蛾を誘うためである。スイカズラの細長い筒状の花型は蜜を吸う蛾の口吻に合わせたものだ。
花が終わると、小さな緑色の果実ができる。秋には熟して、黒色の果実になる。

 4月18日、奈良の大神(オオミワ)神社とその摂社の狭井(サイ)神社で鎮花祭(ハナシズメノマツリ)が伝えられる。千数百年来続いている鎮花祭は古式豊かに執り行われる。春の花の飛び散る季節は、疫病がはやるので疫病の活動をとどめるための祭である。大神神社の祭神である大物主命(オオモノヌシノミコト)は酒の神としても親しまれているが、一方では日本古代最大の祟り神にほかならない。崇神天皇は疫病流行が大物主のなせる業と知り、大物主を祭ることで祟りを鎮めたことを記紀が伝えている。
 鎮花祭のとき、ご神体の三輪山に自生する忍冬(スイカズラ)と百合(ササユリの球根)が供えられる。その忍冬を酒につけた忍冬酒が参列者に配られる。

 忍冬酒は花と蕾を入れて造られ特有の甘い香りは素晴らしく、更に利尿作用があり、膀胱炎、腎臓病や強壮、強精にも効き目がある。
 葉や茎を乾燥させたものは忍冬と呼び、抗菌作用があるので腫れ物や口内炎、湿疹、かぶれなどに用いる。花を乾燥させたものは金銀花といい、腰痛、関節痛、風邪の解熱/利尿などに用いる。
 古代エジプトで作られた装飾模様の1つに忍冬文がある。これはギリシア、ローマから中国を経て日本に伝わり、正倉院御物や法隆寺の玉虫厨子の透かし彫り金具に見ることが出来る。


                                            忍冬紋