シュウカイドウ(秋海棠)

 
 秋の声を聞くと、シュウカイドウの淡紅色の花が咲き出す。シュウカイドウはシュウカイドウ科シュウカイドウ属(ベゴニア属)の多年草で、ブラジル原産のベゴニアもこの仲間であるが、シュウカイドウの原産地は中国の長江以南の各省から山東、河北省に至る地域である。植物病理学者の白井光太郎の「日本博物学年表」によれば、寛永18年(1641)に日本に渡来したとする。しかし、その出典は明らかではない。貝原益軒は「花譜」の中で正保の頃(1644-47)に長崎にもたらされたと記している。園芸家の水野元勝の「花壇綱目」(1681)にもその名が見られ、いずれにしろ江戸時代の初めに園芸用に持ち込まれたことは確かである。現在では関東以西の暖地の湿った樹林内に野生化している。
   
                雄花                雌花

 草丈 40-60cm 前後に生長し、ハート形の葉を互生させるが、葉は左右非対称で歪んでいるように見える。長さが 20cm 程度と大きい。葉にはシュウ酸が含まれている。雌雄同株で、花期になると茎の頂点から花序を伸ばし、2 - 3cm 程度の淡紅色の花を咲かせる。雄花から咲き始め、雄花は上方に正面に向いて開き、中央に黄色く球状に集まった雄蘂が目立つ。雄花の4枚の花弁のうち実は左右の小さな2枚が花弁で、上下の大きな花弁のように見える2枚は萼。雌花は下方に垂れ下がった状態で下方に向いて開き、中央の黄色い雌蕊は3つに分かれ先はらせん状になっている。雌花も雄花と同様の花を咲かせるが、雌花は2枚の花被片と三稜の翼を持つ子房からなる。子房の中にはすでに種子が用意されていて、受粉に成功すると、種子が膨らみ始める。
 花が終わると、茶色の羽が 3枚ある楕円形の実を付ける。実の中の種子のほか、開花後には葉腋に珠芽(しゅが:むかご)を付け、それでも殖える。
 実を付ける頃には地上部は枯れ、球根で越冬する。

 シュウカイドウの名は中国名「秋海棠」の音読みで、 秋海棠は、春に咲く海棠に似た色で、秋に咲くという意味である。

 ベゴニア属に属するが、西洋から持ち込まれた園芸種をベゴニアと呼び、本種は古くから定着していたため、ベゴニアとは呼ばれない。
ベゴニアは寒さに弱いので、シュウカイドウとの交配で寒さに強い種を作れないかと、多くの試みがされているが、今のところ成功していない。

 シュウカイドウは中国原産だが、日本にも自生するシュウカイドウの種として、沖縄県の八重山諸島にコウトウシュウカイドウ とマルヤマシュウカイドウ がある。いずれも森林内の谷間周辺に見られ、コウトウシュウカイドウは茎が立って木立状になり、マルヤマシュウカイドウは茎が短く、葉は根出状になる。

【中国の民話】(中国明代の「嫏嬛記」)
 昔、ある女性が恋人に会えないため、いつも北窓の下で泣いていたところ、その涙のこぼれた場所に草が生えてきました。その草の花は秋に咲き、泣いていた女性の顔立ちに似てなまめかしく、葉は青々として花の赤を引き立てました。断腸花や八月春と呼ばれたこの花が、いまの秋海棠です。