シュウメイギク(秋明菊)



 
 
 シュウメイギク(秋明菊)は、名前にキク(菊)が付くが、キク科の植物ではなく、キンポウゲ科アネモネ属の多年草である。学名は、「アネモネ ヤポニカ」で、「日本生まれのアネモネ」という意味で、英語名は、「ジヤパニーズ・アネモネ」という。しかし、日本原産の植物ではなく、中国原産である。
 古くに中国からもたらされ、栽培している内に逸失して、野生化したと考えられる。中国全土に一重の花が咲くが、日本にもち込まれたのは、紅紫色の八重咲きのものであった。現在では本州、四国、九州の低山の林縁などに分布する。
 文献上では江戸時代の水野元勝の『花壇綱目』(1681)に「秋明菊」の名前で記載がなされている。また元禄12年(1699)の伊藤伊兵衛(三之丞さんのじょう)著『草花絵前集(くさばなえぜんしゅう)』にも、「志うめいきく 花むらさきにて菊のごとし、八、九月より咲く」とあり、日本に定着していたことが窺える。
 半日陰に育ち、株全体に白くやわらかい毛があり、地下茎で広がり群落となる。根出葉は3出複葉で、長い柄がある。10月ころ60センチメートルほどの花茎を出し、花茎の先にキクに似た径5~6センチメートルの紅紫色の花を開く。実は、花びらのように見えるのは萼片で、20~30枚あり、外側のものは緑色、内側のものは花弁状となる。花びらは退化して無い。この植物は、虫を誘いこむために、萼を花びらのように装い、花を大きく見せている。
 秋にキクに似た花を咲かせることからこの名がある。京都の貴船山付近に多く野生化していることからキブネギク(貴船菊)ともいう。地方によっては「加賀菊」「越前菊」などとも呼ばれるように、広く日本人に愛されてきたことをうかがわせる。
中国では明代末の「三才図会」に「秋牡丹」の名前で記載されるようになる。ボタンに匹敵する秋の花の意である。「秋牡丹」の呼称は貝原益軒も「大和本草」で使用している。

またシュウメイギクは、19世紀半ばに採集家フォーチュンによって中国からイギリスに渡り、ネパール原産のアネモネ・ウィティフォリアと交配され、品種改良された。これらの園芸品種は、欧米では「ジャパニーズ・アネモネ」の名で親しまれ、一重の白やピンク、紅色など多彩な花色で人々の目を楽しませている。

 キンポウゲ科の植物には毒の成分を含むものが多い。シュウメイギクも全草にプロトアネモニンを含む。これは細胞組織を破壊する配糖体のラヌクリンが加水分解することによって生じるものである。
 液汁が肌に付着すると、腫れや水ぶくれなどのなどの皮膚炎を起こす。また、人間が間違って食べることは無いが、昔から家畜が食べて中毒症状を起こしており、ウシゴロシの異名もある。