ツワブキ(石蕗)

    10月も半ばを過ぎると、野辺に咲く花も数が少なくなってくる。ノコンギクやリュウノウギクなどの野菊やセンダングサなどの小さな花が咲いている。そんな中、ひときわ目を引くのがツワブキである。
大型の葉の間から花茎を伸ばし、草丈はおよそ30 - 75センチメートル ほどになる。その先端に枝分かれした散房花序をつけ、直径5 cm前後のキクに似た黄色い頭状花を、ややまばらに数個まとめて咲かせる。花のつくりは、外周に舌状花が並び、中心には密に管状花が集まっていて、どちらの花も結実する。

 和名ツワブキの由来は、葉がフキの葉に似て、艶があることから艶葉蕗(つやはぶき)から転じたとする説のほか「厚い葉を持ったフキ」を意味する厚葉蕗(あつはぶき)から「あ」が飛び、転じたとする説もある。
このツワブキに「石蕗」の字があてられる。「蕗」はフキだが、「石」がどうしてツワなのか分からない。ツワブキは海岸沿いに多く自生し、岩の上や石の間などに生えるからだという。そのせいか、ツワブキは「イシブキ」あるいは「イワブキ」という別名もある。
「本草和名」では、漢名の「款苳(カントウ)」をあて、「和名抄」では「蕗」の漢字をあてた。ところが、日本のフキ(蕗)と同じ植物は、中国では「蜂斗菜(ホウトサイ)」と書き、「款苳・蕗」のどちらも、誤用であったことが、分かっているが、「和名抄」の「蕗」の漢字の用法が現在に定着している。

 原産地は日本、中国、台湾で、日本においては、本州の太平洋側では福島県から、日本海側では石川県から西の地域及び、四国や九州及び南西諸島(大東諸島及び尖閣諸島を除く)に分布する。

 土の下に短い茎があり、土の上には葉だけが出る。葉は土の中の根から生える根生葉で、葉身は基部が大きく左右に張り出し、全体で円の形に近くなる腎臓形で特有の香りがある。葉の長さは4 - 15 cm、幅6.5 - 29 cmと大型で、濃い緑色をしており、葉身は厚くて表面につやがある。このつやはクチクラ層によるもので、これは潮風から身を守るためである。

 フキと同じように葉柄をキャラ煮(醤油で佃煮のように煮る)して「キャラブキ」を作る。ただ、ツワブキには発ガン性が疑われるピロリジジンアルカロイドが含まれているため、軽くゆがいて皮を剥き、酢を少量加えた湯で煮直し、1日以上水に晒すなどの灰汁抜きが必要であり、フキよりも準備に手間がかかる。

 葉には抗菌作用のあるヘキセナール(青酸アルデハイド)を含み、病害虫は少なく、江戸時代には葉を火であぶって細かく刻み、打撲やできもの、切り傷、湿疹に用いた。葉を日干しにした生薬は、「橐吾(たくご)」という。「橐吾」はツワブキの漢名で、この字を当てて、「ツワブキ」とも読む。


島根県の津和野(つわの)の地名は「石蕗の野(ツワの多く生えるところ)」が由来となっているという。
津和野出身の森鴎外は一時期「橐吾野人」という号を用いた。

 「石蕗の花(つわのはな)」や「いしぶき」は初冬の季語とされている。

時雨きて 石なまめきぬ 石蕗の花  (白貧)