ウメ③ 梅の実

    ウメの実は6-7月頃に結実する。だからこの頃に降る雨を梅雨という。ウメの実は石果である。多肉質の中果皮に覆われた硬化した内果皮(核)があり、この核の中に「天神様」とも「仁」とも呼ぶ種子がある。硬い核によって、動物からの被食を防いでいる。
 果実を食用とする。梅干をはじめ、果実酒、煮梅、砂糖漬などをつくる。梅干はウメの実を塩漬にしたもだが、平安時代中期に開発されたものとされる。武家が食すようになったのは室町時代で、保存が利くので戦場にも持って行った。江戸時代の元禄期頃(1688-1704)に赤ジソの葉を加えて漬け込むことで赤く染色する技術が開発された。江戸時代には一般庶民にも普及していった。
 梅干しに含まれるクエン酸は、唾液を分泌させ消化を促すので、食欲を増進させ、さらに体内の乳酸を減らすので疲労回復の効がある。またクエン酸は解毒や殺菌作用もあり、防腐力もあるので食中毒を防ぐ効果もある。
 漢方では未熟果を煙でいぷし天日に干したものを鳥梅(うばい)といい、ほかの生薬と配合して下痢止め、解熱、咳止めなどに用いる。また未熟果をすりおろして果汁をとり、これを煮詰めて飴状にしたものが梅肉エキスで、鳥梅と同様の用途に使う。
 梅干しも薬用となる。風邪のひきはじめには熱して黒焼きにした梅干に熱湯を注いで飲めば熱が下がる。小さな傷が化膿したとき、梅干の肉をすりつぷしてガーゼなどに塗り、患部に当てると消炎作用がある。

 但し、ウメの未熟果や種子(仁)にはアミグダリンが含まれ、生食すると腹痛や下痢を起こす。
 毒の部位に含まれるアミグダリンそのものには毒性は無い。エムルシン (emulsin) という酵素によって加水分解されるとグルコース、マンデロニトリルが生成され、さらにマンデロニトリルが分解されると杏仁豆腐やビワ酒に共通する芳香の原因になるベンズアルデヒドとシアン化水素(青酸、猛毒であるが長期保存すれば分解されて無害になる)を発生する。
 エムルシンはアミグダリンを含む未熟な果実などと一緒に含まれる事が多く、アミグダリンを含む果実が熟すにつれてエムルシンの作用によりアミグダリンは分解され、濃度が下がっていく。この時に発生する青酸も時間と共に消失していく。このため、熟したウメやアンズなどをヒトが経口摂取しても青酸中毒に陥る心配はほとんど無い。

中国医学では、収斂性を持つ酸味のあるウメは、下痢と赤痢の症状の抑制、止血、咳止めに使われる。鉤虫の駆除にも有効である。果実から作った膏薬はたこやいぼに外用され、回復を早める。

ウメの実の日本全国の収穫量の7割近くを和歌山が占め、そのほとんどが「南高梅」というブランドである。南高梅は実が大きく、種子が小さいのが特長である。