ヤマモモ(山桃)


 
 美術館の横にヤマモモの木がある。ヤマモモはヤマモモ科ヤマモモ属の常緑高木で、雌雄異株である。美術館の横のヤマモモは雌株であり、実が成る。昨年(2022年)はわずかしか実が付かなかったが、今年(2023年)は実の成り年のようで、6月の半ばから多くの実を付けた。ヤマモモの木から10m程南にコナラの木がある。ここにリスが巣を作っている。ヤマモモとコナラの木の横に電線が走っている。ヤマモモの実が赤く熟し出すと、毎日、何度もリスがこの電線の上を伝わって来て、ヤマモモの木に飛び移り、実を食べていく。シャリシャリと、実を食べる音がしている。

 ヤマモモは中国大陸や日本を原産とし、暖地に生育し、暑さには強い。日本では関東西南部以西に自生。おそらく、伊豆半島の伊東市、房総半島の南部が北限と考えられる。伊東市の八幡野、紀州や土佐の海岸に群落がある。
 ヤマモモは、中国では新石器時代、7000 年前の遺跡から種子が出土しており、また、唐の時代に多く植栽されていたようである。わが国でも縄文時代初期の遺跡から出土している。
 3-4月、葉腋に花穂を出し、雄花は黄褐色、雌花は小さな桃色の花弁4枚の目立たない花をつける。花後、雌花は卵形で突起の多い核果となり、初夏から夏に赤熟する。熟した果実は甘酸っぱく、生食とするほかジャム、果実酒などに加工する。
伊豆ではヤマモモのことをヤンモという。

 植物学者で東大名誉教授だった前川文夫(1908-1984)は「植物の名前の話」(八坂書房)の中で、「モモは外側が漿質または軟質、内に硬いしかも大きい中心が一つだけあるもの、モがミ(実または身)を意味するとすれば外のミと内のミとの内外の二重性が成立し、その二重性をモモの二字の重複で表現したもの」としている。
 そして、日本にもともとあったヤマモモをモモといい、後に中国大陸から渡来した桃に毛があることからケモモといった。しかし、ヤマモモより桃の方が栽培が容易なこと、花が美しいこと、果実が大きいし美味しいことから、桃が珍重され、やがてモモといえば、桃を指すようになった、と述べている。

 万葉集にモモを詠んだ歌は7首ある。「毛桃」が3首、「桃花」が3首、「桃樹」が1首である。「桃樹」がヤマモモと考えられる。

 向(むか)つ峰(を)に 立てる桃樹(モモの木) ならめやと ひとぞささやく
 汝(な)が心ゆめ              (巻7.1356 詠み人知らず)

(向いの丘に立っているモモの木には実はならないだろうと、人がひそひそ言っている。努めてこの恋が成就するようにしてください)

この歌のモモはヤマモモである。ヤマモモは雌雄異株であり、当然のことながら雄株に実がなることは無い。

ヤマモモは四国が一大生産地で、徳島県、高知県が二大生産地である。しかし、農林水産省がまとめている特産果樹生産動態等調査によると、平成21年には全国で47.1トンの収穫(徳島県32.0トン、高知県13.8トンなど)だったが、平成30年には全国で20.8トン(うち徳島県14.3トン、高知県6トン)、そして令和2年には全国で11.8トン(徳島県11トン、高知県0.8トン)と現象の一方である。
 四国では果物として店頭に並ぶこともあるが、傷みが早いので生食されることは少ない。 我が家でも熟したヤマモモを採っているが、ほとんど果実酒にしている。