ヨメナ(嫁菜)とノコンギク(野紺菊)


  ヨメナとノコンギク


                   ヨメナ 
 秋になると、野原や道ばたに野菊が咲き乱れる。野菊は野生のキクの総称で、キク属だけでなく、シオン属、ハマベノギク属、ヨメナ属、ミヤマヨメナ属のものまで含めた約50種類ものキクである。野菊は見た目がよく似ていて、見分けが付かない物も多い。特にヨメナとのノコンギクは見た目からでは区別が難しい。

 ヨメナはキク科シオン属の多年草で、本州(中部地方以西)、四国、九州の田や畔、山野のやや湿ったところに自生。日本の固有種。地下茎を伸ばして繁殖し、茎は高さ30-100cmになり、全体に淡紫色をおぴた緑色。葉は互生し、披針形で縁に粗い鋸歯がある夏から秋に、茎の上部に頭花を散房状につける。中央に黄色の筒状花が集まり、周りに紫色の舌状花が並ぶ。

代表的な春の摘み草で、「万葉集」にも詠われている。「春日野に煙立つ見ゆ娘子(おとめ)らし春野のうはぎ摘みて煮らしも」(10・1879)。
「うはぎ」はヨメナの古語で、「はぎ」は生芽(はえぎ)の略で若芽のことである。この頃すでに、食用にされていたことが分かる。

 ヨメナの名前の由来には諸説ある。
 ①春の若菜のなかで美味で、花が美しいことから。シラヤマギクの別名である婿菜(ムコナ)に対して、付けられた名前としたのは牧野富太郎である。ただムコナはムカゴナの転移したものだとするする説がある。(葉の表面に生じる虫こぶをムカゴに見立てたもの)
 ②ヨメは姫のように小さいという意味。しかし、茎の高さ1mにもなり、花も2.5cmほどもあり、小さいとはいえない。
 ③ヨミナ(吉菜)の意味。
 ④ヨメはネズミの古語。ネズミは夜目が利くという意味か。田畑の作物ではないので「ネズミの食べる菜」と呼ん だ。
 ⑤嫁が摘む菜という意味。


                   ノコンギク 
 ノコンギクはキク科シオン属の多年草で、ヨメナと共に日本の固有種。北海道、本州、四国、九州の平地から山地の日当たりのいい野原や草原、道ばたに自生。地下茎は横にはう。茎は高さ30-100cm。葉は広披針形または長楕円形で。両面に短毛を密生しざらつく。晩夏から秋に、茎の上部が散房状に分枝し、多数の頭花をつける。頭花は径2.5cmほど、中央に黄色の筒状花が多数集まり、まわりに淡紫色の舌状花が一列に並ぶ。

ノコンギクは江戸時代には栽培されていた。園芸種のコンギクはノコンギクから作出されたとされる。貝原益軒の「大和本草」や寺島良安の「和漢三才図会」に「初元結」「大明菊」などの栽培種が紹介されている。

 伊藤左千夫の「野菊の墓」は東京の矢切の私の近くの農村を舞台にしているので、この野菊はヨメナとノコンギクのいずれかとされる。

 ヨメナ、ノコンギク、共に食用となり、若芽をお浸し、和え物、油炒めにする。また、根は塩ゆでにして飯に炊き込む「嫁菜飯」とする。

ヨメナとノコンギクの違い
  ヨメナ   ノコンギク
 葉  葉の表面の縁にわずかに毛があるだけでほぼ
無毛。ざらつかない。
 葉の両面に短毛があり、ざらつく。
 花  頭花は小枝の先に1個つく
 頭花は散房状に付く
果実   痩果の冠毛は目立たない  痩果に冠毛がある